仙台高等裁判所 昭和60年(ネ)311号 判決 1986年9月18日
控訴人(第一審被告)
工藤敬蔵
右訴訟代理人弁護士
金沢茂
同
金沢早苗
被控訴人(第一審原告)
一戸政富
右訴訟代理人弁護士
平田由世
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、左記のほかは原判決事実摘示及び当審記録中証拠関係目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。
(原判決の補正)
原判決二枚目表五行目の「訴外株式会社工藤組」から六行目の「被告)」までを、「工藤蔵治(なお同人は昭和三四年二月死亡し、控訴人が相続により賃借人たる地位を承継した。)」、同三枚目表一行目から四行目までの全文を「請求原因第1項は認める。」と改める。
理由
一請求原因第1項の事実(被控訴人と控訴人先代との本件係争地を含む土地の賃貸借契約の締結、引渡し及び控訴人の承継)及び第2項の事実(被控訴人の控訴人に対する本件係争地についての右賃貸借契約の解約申入れ)は当事者間に争いがない。
二控訴人は、被控訴人と控訴人の先代蔵治間の本件賃貸借契約は建物所有を目的として締結されたものである旨主張し、被控訴人はこれを争うので判断するに、<証拠>によれば、訴外亡蔵治が昭和二一年ころ被控訴人から製材所、建設作業場、車庫、倉庫、作業員宿舎等の建物所有目的で本件係争地を含む原判決添付別紙物件目録(一)ないし(七)の土地等を一団として賃借したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
被控訴人は、本件係争地の部分は賃貸当初から使用目的を貯木場と限定していた(非建物所有目的)旨主張するが、本件係争地の部分のみを他の賃借部分から区別して右主張のごとき限定をしたとの事実を認めるに足る証拠はない。
そうだとすれば、本件賃貸借契約は借地法の適用を受け、その存続期間は昭和二一年から三〇年となるところ(同法二条、三条)、右期間経過の時点において同法六条のいわゆる賃貸借の法定更新の基礎となるべき事実の存在は当事者間に争いがないから、消滅すべき特段の事由がないかぎり同法六条、五条により昭和五一年から二〇年間は借地権が存続するものというべきである。
三被控訴人は、控訴人は被控訴人に無断で、昭和五二年一〇月頃スーパー店を営む株式会社亀屋(以下「亀屋」という。)に対し、本件係争地を同店用の駐車場として賃貸(転貸)した旨主張し、昭和五八年七月二八日到達の解約申入れは民法六一二条所定の無断転貸を理由とする解除の意思表示とも認めうるのでその当否について判断する。
<証拠>によると、次の事実を認めることができ右認定に反する証拠はない。
控訴人は昭和四八年三月頃製材工場を焼失し、これを新築しようとして被控訴人の承諾を求めたが拒否され、そのうえ借地の一部の返還(合意解除)を求められ、控訴人はこれに応じて借地していた原判決添付別紙物件目録(一)ないし(七)記載の土地及び現在スーパー亀屋が被控訴人から賃借しスーパー店舗の敷地として使用している七〇〇坪余の土地のうち、右後者の七〇〇坪余の土地を返還し、被控訴人は其の後右返還を受けた七〇〇坪余の土地を亀屋に賃貸し、亀屋は同所にスーパー店舗を建て営業してきたが、駐車場が狭かつたため被控訴人に駐車場用地の貸与方を求めたところ、被控訴人は、控訴人との交渉をすすめたので、亀屋は控訴人にその趣旨を説明して、控訴人が被控訴人から借地中の土地のうち亀屋の駐車場として必要な部分の賃借(転借)方を懇請し、その結果控訴人は亀屋に対し昭和五二年一〇月頃本件係争地部分を駐車場として賃貸するに至つた。
右認定事実によれば、控訴人の亀屋に対する本件係争地の転貸につき、被控訴人が控訴人に直接承諾を与えた事実がないとしても、社会通念に照らし承諾を与えたに等しいから、無断転貸を理由として右転貸部分の賃貸借を解除することは許されないというべきである(右解除が権利濫用に当るか否かを問うまでもなく、控訴人の亀屋に対する右転貸は未だ被控訴人との間の賃貸借関係における信頼関係を破壊するものではない。)。
四その他、被控訴人と控訴人間の本件建物所有を目的とする土地の賃貸借契約のうち本件係争地の部分の契約の失効その他借地権の消滅の原因となるべき事実の主張立証はない。右被控訴人と控訴人間の土地賃貸借が、広大な土地を対象としていること、被控訴人が返還を求めている本件係争地がその一部にすぎないこと、あるいは右係争地の一画が塀をまわしたり駐車場用に舗装されるなどして他の借地と截然と区別されるに至つたことなどの事情があるとしても、そのこと自体はなんら賃貸借の効力に消長を来たすものではない(本件係争地の部分に限つて建物所有目的を変更し、借地法適用除外地とする旨の合意をしたとの事実も認められない。)。
五以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求は理由がないというべきである。
よつて被控訴人の請求を認容した原判決は相当ではないからこれを取消すこととし、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官伊藤和男 裁判官清水次郎 裁判官岩井康倶)